ご挨拶
我々の研究室では、生活習慣病および介護予防に関する健康・運動疫学研究を展開中であります。
 生活習慣病関連では、九州大学が中心となって展開されている一般地域住民を対象とした久山町研究に参画し、死亡率、罹患率、認知症、およびメタボリックシンドローム等をアウトカムとした運動疫学研究を展開しています。特に認知症に関しては、日本医療研究開発機構(AMED)の研究費によってall-Japan体制で「1万人規模の大規模認知症コホート研究」が展開されていますが、我々の研究室は身体活動・座位行動および運動量の評価を担当しています。職域においては、岡山市の両備グループおよび福岡市のCRCグループの社員の皆様を対象に、財団法人日本健康倶楽部のご支援を得ながら、縦断研究を継続中であります。そこでは、身体活動量・座位行動調査や栄養調査に加え、職業性ストレス、うつ症状、睡眠障害、QOL調査等から、メンタルヘルスやメタボリックシンドロームに関する縦断研究を展開しています。特に、職域研究では身体活動・座位行動の定量化を目的として、3軸加速度センサー内蔵活動量計(活動量計)を用いた疫学研究を展開している点は、世界に例のない試みであります。
 介護予防関連では、太宰府市および糟屋郡篠栗町在住の65歳以上の地域在住高齢者対象(約3500名)に、曝露指標として体力・運動パフォーマンス、活動量計による身体活動・座位行動評価、および身体的フレイルを用いて、転倒、閉じこもり、認知機能、うつ症状、および介護認定・介護費用などをアウトカムとした身体活動疫学研究を展開しています。さらに、平成29年度からは糸島市との共同研究として「糸島フレイル疫学研究」をスタートさせます。身体的フレイル改善のための運動介入研究(対面・非対面型運動指導)をコホート内で実施すると共に、介護認定状況をアウトカムとした前向き研究を展開予定であります。
 平成22年度からは、九州大学新入生全員を対象に「疫学的アプローチによる学生のメンタルヘルス支援に向けたシステム構築:EQUSITE Study」に関する研究を継続しております。 今後は、QOL、うつ状態、修学状況(遅刻欠席状況など)、学力(大学入試センター試験、単位取得状況、GPA)などをヘルスアウトカムとした縦断研究を展開しています。
 本学のリサーチコアでは、上記のすべての研究を包含した形で、大学内外の多施設の研究機関と協働して、「身体運動の科学を通しての社会貢献」(2009年認定)に関する教育・研究を推進しています。今後は公開講演会などの定期的開催に加え、大型の外部資金の獲得に基づいたコンソーシアムの展開を行っていく予定であります。

教授 熊谷 秋三