バーンアウトとは

研究の背景

現在スクールカウンセラー制度などの充実に伴い、臨床心理士・セラピスト・カウンセラーの数が年々増加してきています。臨床心理士は2004年現在、11,533名を数え、これから臨床心理士の資格をとる若い人も増えており、ますますこの傾向は増えると思われます。しかし、カウンセラーが職業的アイデンティティーを確立するにしたがって、クライエントのメンタルヘルス(精神的健康)に関する心理学的問題だけではなく、臨床心理士・セラピスト・カウンセラー自身の職業的メンタルヘルスの問題がクローズアップしてくると予想されます。例えば、あらゆる援助職でそうであるように、セラピスト・カウンセラーのバーンアウトは増加することが予想されます。


セラピスト・カウンセラーのバーンアウトは、セラピストに機能不全、例えば慢性疲労、うつ病、アルコールや薬物依存、感情鈍麻を増やしたり、ハラスメントなどの倫理的な問題などのリスクを高めると言われています。また、臨床心理学的な判断などにおいて、直感や経験を活用できなくなってしまい、業務に支障が出ることも予想されます。また、セラピーやカウンセリングの過程において、セラピスト・カウンセラーはクライエントさんのこころの苦悩に寄り添い、共感し、共有しますが、それによって、セラピスト・カウンセラーのほうに傷つきがおこったり、感情鈍麻がおこったりすることもあります。


これらの事態を防止することは、セラピスト・カウンセラーの利益を超えて、クライエントさんの利益を守ることであり、職業倫理とも関連することであると考えます。このようにセラピスト・カウンセラーが自身のセルフケアに留意することは重要な問題と言えます。

セラピスト・カウンセラーのバーンアウトとは

Raquepawら(1989)によれば、


「バーンアウトは、直接対人接触のある仕事についている人にしばしば生じる情緒的疲労困憊とcynicism(冷笑・嘲笑)の症候群である。(Maslach,1978; Maslach &Jackson,1981,1982,1984;Pines & Maslach,1978)


それは、長期にわたり、対人関係に集中して関わることに関連するコンスタントな繰り返される情緒的なプレッシャーの結果である。(Pines Aronson, & Kafry,1981,p.15)


バーンアウトの犠牲になると、理想やエネルギー、目標を失う(Edelwish & Brodsky、1980)が、バーンアウトは多くの専門職にとって起こりうるものであり(Beemsterboer & Baum,1984)、対人援助の専門家に特にリスクが高いと思われる(Maslach&Jackson,1981)。


このような状況では、バーンアウトは、クライエントに対する関心やポジティブな感情を失わさせ、クライエントが受けるサービスの質が低下してしまう(Edelwish & Brodsky,1980;Maslach,1978)。


バーンアウトを経験した人は、意欲を失い、仕事の成果も出せず、長期欠勤や転職に至る可能性がある。(Maslach,1978;Pines & Kafry,1978;Taylor-Brown,Johnson,Hunter, & Rockowitz,1981)」

(筆者による仮訳)


以上まとめると、バーンアウトは

  • 恒常的、繰り返しプレッシャーに暴露された結果
  • 疲労困憊
  • 誰にでも起こりうる
  • 結果的にカウンセリングの質が低下(クライエントさんが受けるサービスの質が低下)してしまう
ものです。