設置目的と必要性
     
  目的  
 
疾病(生活習慣病および要介護状態)予防や改善、および生涯にわたる心身の生活機能の維持や調節にとって必須である身体運動の役割やその効果に関して、基礎的(分子メカニズム含む)および介入研究を含む疫学的観点からの研究を展開すると共に、運動療法や運動指導に関する運動プログラムの開発・評価が実施できる研究基盤を構築することを目的とする。
その継続的な研究環境の維持のための人材育成システム(身体運動科学専攻の設置)を構築するこを目的とする。
研究成果を実社会へ還元するための高度専門職としての身体運動支援士(仮称)の国家試験による資格認定を目指す取り組みを展開することを目的とする。
     
  必要性  
 

 健康科学センターは、健常者を対象に「健康外来」を世界に先駆けて構築・実践してきた歴史を有するユニークな組織である。そこでは、多様な健康概念の受容や、それらに基づく健康支援システムを確立した。健康外来は、現在の健康支援活動のモデルとされ、広く普及したことからその役割を終えた。
  しかし、昨今の特定検診後の特定保健指導に関わる人材の質の確保は満足いく状態ではないことから、保健指導専門家の人材育成事業は当該センターが取り組むべき課題と考えた。 九州大学の学内において、体育・スポーツ科学の研究者のみならず、それぞれの専門領域の方法論を用いて身体運動の科学に関連する研究が複数の研究院(理学研究院、農学研究院、医学研究院、およびシステム情報科学研究院)で、単独もしくは健康科学センターとの共同研究として進行・計画中である。

具体的には、

@ 運動と脳機能に関する基礎研究 (理学・農学・システム情報科学研究院)、

A 地域住民の生活習慣病、認知症、および眼科疾患に関する運動疫学研究 (医学研究院;久山研究)、

B 介護予防プログラムの開発評価 (健康科学センター、付属病院リハビリテーション部)、

C ネパール人の環境・運動疫学研究 (健康科学センター)、

D 勤労者のメタボリックシンドローム発現に関する運動疫学研究 (健康科学センター)、

E 地域在住高齢者のメンタルへルスに関する運動・社会疫学研究 (健康科学センター)、

F 生活習慣病の一次予防に必要な運動量の基準値作成に関する研究 (健康科学センター+医学研究院:久山研究)、

G 運動に伴う骨格筋適応のシグナル伝達経路の解明 (健康科学センター+農学研究院)

などが、文部科学省や厚生労働科学研究補助金などの補助を受けて展開予定・進行中である。


  今後、これらの研究成果は大学内において統合される必要性が高いことから、学部横断的なリサーチコアの設置は九州大学にとって必須と考えられる。

  その他、国内外の研究機関とも積極的な研究交流を実施している。ハンガリーのセメルワイス大学体育スポーツ科学部と健康科学センターとの間には国際学術交流協定が締結され、持続的な共同研究が継続されている。すでに、運動に関するテキスト 2 冊(英文と日本語)が刊行され、国際誌にも複数の研究論文が発表されている。

  また、フインランドのクオピオ大学医学部生理学研究室との共同研究の環境が整備されている。さらに、ハーバード大学の著名な運動疫学者の I.-M.Lee 博士も参画され、運動による疾病予防の疫学的機構解明が期待されている。

  その他、国内外の身体活動評価や行動療法などの専門家からも、身体活動の増強や運動実施に関する実践的なプログラムの開発・評価に関する研究への期待が寄せられている。特に、 IT 環境を利用した生活習慣改善プログラムの開発(佐賀大学)には、厚生労働省より、生活習慣病の一次予防の観点から大きな期待が寄せられている。