研究の背景  
 

近年、運動習慣によって脳が活性化し、メンタルヘルスに良い影響を及ぼすという仮説を支持する科学的論拠が蓄積されている.一方,臨床的にはメンタルヘルスが悪化したときには食欲や睡眠が阻害されるのは常識であるが,いわゆる生活習慣病と関連のある栄養や睡眠がメンタルヘルスに与える影響の詳細は不明である.そこで,運動,食事,睡眠がメンタルヘルスに与える影響を調査し,科学的な根拠に基づいたメンタルへルス支援に向けたシステムを構築する.

 

運動習慣と学力やうつとは関連がある

  スポーツ活動が,精神活動に関与する能力にも良い影響を及ぼすことが,近年明らかにされつつある.これまでにも,スポーツ活動が身体能力を向上させることは明らかにされてきた.大学での週1回の授業であっても,その効果は発揮されることは,九州大学での授業を用いた研究によって明らかにされている(林と宮本 ,2009 ).一方,シカゴのある高校では,始業前に陸上トラックを4週するように指導したことによって,体力が全米トップクラスになると同時に,学業成績も向上した( Ratey & Hagerman, 2008 ).また,運動をすることによって、うつ症状が改善した事例も報告され,運動量とうつ発症との間に反比例の関係があることが明らかにされつつある( Goodwin, 2003 ).これらの変化は運動に伴って,脳由来神経栄養因子( BDNF )やインスリン様成長因子( IGF-1 ),血管内皮成長因子( VEGF )が脳内で協力して学習にかかわる分子メカニズムを活性化させるためと考えられている.

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